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東京大学授業料値上げの意味と地方国立大学への波及可能性を考える

東京大学は2024年9月10日に会見を開き、授業料の改定案を発表しました。

まだ審議案であるにも関わらず、ほぼ決定事項のように報道され、既成事実になりつつあります。
※9/24授業料の値上げを正式決定

それにしても東京大学の授業料値上げが何故ここまで話題になるのか、国立大学のこれからについて考察します。

東京大学の授業料引き上げ案とは

東京大学は「教育環境の改善」を理由として、令和7年度入学生から授業料を現行の年間53万5800円から64万2960円に引き上げる改定案を発表しました。

現役生に配慮して修士課程の値上げは4年後から。

また、これと合わせて経済的支援の拡充案についても提案されています。

400247072.pdf (u-tokyo.ac.jp)

国立大学の授業料は自由に決められるのか?

国立大学は授業料年額535,800円、入学料282,000円などが標準額として国立大学等の授業料その他の費用に関する省令で定められている。

ただ、省令の10条で、特別な事情がある場合は1.2倍を超えない範囲まで上げても良いことになっていて、東京大学はこの条文を根拠に授業料を上限まで引き上げたことになります。

1.2倍の上限が決められていますし、標準額が過去20年間全く上がっていないことを考えると、急に授業料が100万円になるようなことは心配しなくても良いでしょう。

既に値上げしている・予定している大学

2019年度に東京工業大学・東京芸術大学、2020年度に千葉大学・一橋大学・東京医科歯科大学、2024年度に東京農工大学が既に値上げをしています。(東京医科歯科大学、東京工業大学は2024年10月統合して東京科学大学に)

今回の東京大学に続いて、和歌山大学・鹿屋体育大学も値上げを検討中とのこと。

今までにも授業料を値上げしてる大学は複数ありますが、専門性の高い大学が多い印象で、総合大学は千葉大学のみ。

値上げに踏み切った大学はいずれも首都圏で、より苦境にさらされている地方国立大学は動けていない状況がわかります。

地方国立大学が値上げしていない理由と今後の動向

なぜ財政難で苦しんでいるのに値上げしていないのか。

もちろん学生の経済的負担を第一に考えてのことだと思います。

それ以外に、国立大学は厳格な定員管理が求められていて、収容定員に対する学生数が多すぎても少なすぎてもペナルティ(※ペナルティの内容によって割合などは様々)が課されるという理由もあると考えます。

学部単位で定員管理が必要なので、不人気学部が一つでもあるような総合大学だと、値上げが志願者数に与える影響をしっかりと見込んでからでないと動けません。

近隣に同じレベルの大学(併願先)があれば、値上げによって志願者が流れてしまうことも考えられます。

こういうときに大学はどう考えるか。

「痛み分けのため併願先や同じ地域の大学とすり合わせて同じタイミングで上げる」です。

これらのことを考えると、単独大学で値上げに踏み切れるのは音大や美大などその分野で強い力を持つ単科大学か、旧帝国大学のような各地方において強い力を持つ大学となります。

地方の総合大学が単独で値上げするのは勇気のいることで、近隣大学と協議は進めるものの、実際のところは文部科学省が標準額を上げてくれることを待つことになると思います。

東京大学が授業料引き上げを行う意味は?

全国区の総合大学である東京大学の授業料値上げは、これまでに値上げを発表した大学とはインパクトが全く違います。

全国ニュースで取り上げられ「東京大学でも授業料を上げないといけないほど国立大学が苦しんでいること」「授業料を値上げすることができること」など話題になりました。

※国立大学が置かれている現状

人件費含めて物価上昇の中、国立大学の主な収入源である運営費交付金は減らされ続けています。

その減った分を埋めるため、各大学は文部科学省の科学研究費などの外部資金獲得に力をいれていますが、運営費交付金と違って使途が細かく決まっていて、一時的な資金は獲得できたとしても将来に向けての基盤強化は難しいのが現状です。

値上げした方が教育学修環境の改善には繋がると思いますが、東京大学は学生納付金依存率が低い。【参考:東洋経済オンライン】

そもそも10万円の値上げで問題が解決するとは思えないし、東京大学ならなおさら大した改善にならないのではないでしょうか。

では何故批判を受けながらも授業料値上げなのか。

文部科学省は来年度の概算要求で今年度比3%超を増額して要求する方針を固めています。

ただ実現するかどうかは不明で、ここ数年間は増額が認められておらず、むしろ減額されています。

財務省への概算要求締切が8月30日、東京大学の値上げ発表が9月10日。

標準額の1.2倍までなら大学の裁量で決定できるとはいえ、なぜこんなタイミング?

もし私が財務省の担当なら「運営費交付金の増額要求の前に授業料値上げが先じゃないのか。東京大学も値上げに踏み切ったし、困っているならまずは自ら努力すべきなのでは。」って言うかな。

それも分かった上でのこのタイミング。

文科省からすると、このまま増額要求しても通らないから学費の値上げを進めることを条件として提示して、見返りに増額をのんでもらうという目論見もあるかもしれません。

値上げを進めることを示すには、どうするのが良いか。

旗振り役の東京大学が値上げをしてもらう。

文部科学省、財務省かどちらが主導かわかりませんが、国立大学の学費値上げと運営費交付金の増額がセットで動いているような気がします。

まとめ

東京大学の授業料値上げのニュースは大きな話題となりました。

地方国立大学への波及効果はあると思いますが、実際に踏み切れる大学は少ないのではないかと考えます。

ただ国立大学の財政状況が危機に瀕してることは間違いなく、文部科学省としても対応策の検討が必要となっています。

運営費交付金増額の交渉材料として東京大学の値上げ。

あくまでも大学主導という形をとりつつも、各大学への強いメッセージを感じます。

財務省の予算案と文部科学省の今後の動きが気になります。

第4期中期目標期間が終わる令和10年度に大きな動きが出てくるか。

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